屋根塗装の相場は、30坪の家であれば40~80万円ほど。かなりの費用が掛かる工事です。費用削減のために、DIYを試みる人もいるでしょう。しかし、高所作業なだけに危険が伴います。道具を揃えるのに、かえって費用がかさんでしまう場合もあります。
安心安全で損をしない屋根塗装のDIYを行うために、必要な道具や作業工程、注意点などを紹介していきます。
1 . 屋根塗装のDIYに必要な道具リスト
塗装のための道具は、ホームセンターなどで購入できます。一般用とプロ用と種類の分かれているものもあります。せっかくだからとプロ用を買っても、使いこなせなければ無駄にしてしまうだけ。自分のレベルに見合ったものを選んで使用しましょう。
ここで、必要な道具の例をおおよその値段とともに挙げておきましょう。以下のようなものがあります。
道具 | 金額 |
---|---|
高圧洗浄機(なければホースとブラシ) | 1万~10万円 |
養生材(ブルーシートやマスカーなど) | 330円/25m(マスカー) |
かわすき(スクレーパー) | 300~800円 |
塗料(下塗り用・中上塗り用) | 使用塗料による |
ローラー、ローラー皿 | 1000~1万円 |
刷毛 | 500~1万円 |
タスペーサー(コロニアル屋根の場合) | 7450円/500個 |
ヘルメット | 1000~3000円 |
安全ベルト | 2500~5000円 |
安全靴 | 1000~3000円 |
脚立 | 1万~2万円 |
清掃道具(ほうきやごみ袋など) | 500~1000円 |
塗料において、プロ用は、下塗り用、中塗り用、上塗り用と、段階ごとに種類が違います。耐久性を考えるのであれば、種類を分けて重ね塗りしなければいけません。
兼用となっている一般用塗料もありますが、耐久性は低くなります。塗りやすく手間がかからない分、耐用年数が下がり、早い周期で塗り直しの時期を迎えることになります。自分の技術と予算などを踏まえて選ぶようにしましょう。
2 . 絶対に欠かせない安全対策
高所作業には危険がつきものです。プロの業者ですら、落下事故により死亡するケースも少なくありません。厚生労働省の発表した令和元年の労働災害統計によれば、建設業における墜落・転落による死傷災害は5,171件。そのうち110件が死亡事故となっています。
DIYを行うのには、安全面において万全を期す必要があります。落下事故を起こさないためにはどのような安全対策をとればいいのでしょうか。
2-1 安全ベルト
高所作業を行う際の落下の危険を防止する道具が、安全ベルトです。基本的には、ベルトを身体に巻きつけ、命綱の先にあるフックを安全箇所に引っ掛けることで、足を踏み外したときの墜落を防ぎます。
安全ベルトは大きく分けて2種類。「胴ベルト型安全帯」と「フルハーネス型安全帯」があります。
胴ベルト型安全帯は、ベルトを腰に巻き付けて使用するタイプです。落下して宙吊りになった際は、腰で体全体を支えることになります。
ベルトのバックルには、スライド式とワンタッチ式があります。ワンタッチ式は着脱が簡単ですが、その分、値段が高くなります。
フルハーネス型安全帯は、胴だけでなく、肩や太ももにもベルトを巻いて固定するタイプです。胴ベルト型とは違い、宙吊りになったときに安定感があります。衝撃が分散されるので、腰だけに負荷が掛かるのを防ぐことができます。
命綱の部分は、ランヤードと呼ばれます。もし、この部分に損傷があれば、体重を支えられません。使用前の点検は欠かさないようにして、2年を目安に交換しましょう。
2-2 作業靴・安全靴
屋根の上は、雨水や洗浄の際の水によって大変滑りやすくなります。傾斜があって不安定なことから、靴にも安全性が求められます。夏の作業などは屋根の上が非常に高温になるため、耐熱性に優れた靴が相応しいでしょう。
安全靴を選ぶ際は、JISマークの入ったものを選ぶのが理想です。JISマークとは、日本産業規格を満たした安全性の保障された製品に付けられるマークです。
安全靴にはもう1つ、JASS規格のものがあります。こちらは、日本保安用品協会が定めた規格であり、安全靴に準じた作業靴という分類になります。
作業が長時間に及べば、足に疲労がたまって事故が起こりやすくなります。サイズが合っていることは当然のことながら、足への負担の少ない履き心地の良いものを選びましょう。
2-3 ヘルメット
屋根での作業は、上から物が落ちてくるというケースが少ないので、ヘルメットを被らずに作業する業者もあります。しかし、安全面において万全を期すのであれば必須です。
ヘルメットも用途が分けられていて、「飛来落下物用」「墜落時保護用」「電気用」などがあります。高所作業で使用するヘルメットは、「墜落時保護用」でなければいけません。
ヘルメットの内側に貼られているラベルを見ると、用途が確認できます。「墜落時保護用」の記載のあるものを使用しましょう。
ヘルメットにも耐用年数があり、素材によって期間は違いますが、おおよそ3~5年程度で交換時期を迎えます。内側のラベルには製造年月日も記載されているので、参考に見ておくといいでしょう。
夏場に作業する場合は、遮熱機能のあるヘルメットがオススメです。炎天下での作業は熱中症のリスクが高まりますが、ヘルメットの着用によって軽減することもできます。
3 . 作業工程
屋根塗装をDIYする目的は、費用削減であるはずです。しかし、作業がずさんであれば短期間で劣化してしまい短い周期で塗り直さなければいけなくなります。結局、初めから業者に依頼していた方が費用を抑えられた・・・ということにもなりかねません。
DIYを成功させるには、しっかりとした工程を組む必要があるのです。
3-1 足場の設置
屋根塗装であれば、屋根に登りさえすればいいので、脚立やはしごで補えるのではと考えるかも知れません。しかし、屋根には傾斜があり不安定な状態での作業となり大変危険です。安全性を確保するのなら、足元を安定させる足場の設置は必須と言えます。
足場に飛散防止用シートを貼ることで、塗料が周囲に飛び散るのを防ぐこともできます。高圧洗浄の際は、水の噴射により汚水が周囲に飛び散る可能性も。足場の設置には、そういった近隣トラブルに繋がる事象を回避する役割もあります。
業者からの見積書を見ると、足場の設置工事に大きな費用が掛かることが分かります。自分で設置できるのであれば、そうしたいところでしょうが、組み立てには高度な技術が必要です。また、5m以上の足場の設置には「足場の組立て等作業主任者」という資格も必要ですので、素直に業者に依頼しましょう。
3-2 養生
足場の設置工事に加えて、飛散防止用シートの取り付けも業者に依頼できます。費用は5万円ほどかかります。これを省くのであれば、自分でおこなわなければいけません。メッシュシートを購入して、建物を囲むように足場に取り付けましょう。
屋根に天窓や換気棟などがある場合、塗料が付着しないように保護しなければいけません。マスカーなどを使って養生を行ってください。
3-3 高圧洗浄
高圧洗浄機を屋根の近くまで運び、洗浄を行います。延長用の高圧ホースを使うと、高所への移動をせずに済みますが、値段は高めです。
高圧洗浄機には、水道の蛇口から本体に水を供給するものや、バケツ・タンクに水を溜めて吸い上げなければいけないものがあり、タイプによって用意するものが多少変わります。準備が整ったら、水圧を調節しながら洗浄を開始。屋根の上にある、ホコリや汚れ、カビ・コケ、古い塗膜などを洗い流します。
この作業を入念に行うことで、屋根の表面と塗料の密着度が上がり、耐久性が高まります。仕上がりを美しくするための作業でもあります。
3-4 下地補修
高圧洗浄では落としきれない汚れやサビなどを、かわすき(スクレーパー)やサンドペーパーを使って滑らかにする作業です。「ケレン」とも言われます。塗料の性能を十分に発揮させるのに欠かせない作業です。
屋根にヒビが入っている場合は、シーリング材を使って補修を行います。この作業を怠るとすぐにまたヒビが入り、雨水が侵入しやすくなり雨漏りの原因になります。
3-5 塗装
塗装作業は、下塗り・中塗り・上塗りの3回塗りになります。
下塗りは、中塗りの塗料を屋根表面にしっかり定着させるための作業です。この作業を行うことで、屋根の耐久性も格段に上がります。
下塗りが乾いたら、次は中塗りと上塗りです。中塗りと上塗りは、基本的に同じ塗料を使います。2回塗ることで塗膜が厚くなり耐久性が確保され、仕上がりを美しくなるのです。
3-6 足場解体
最後は、設置した足場の解体作業です。塗り残しがないか確認してから、業者に連絡して解体してもらいましょう。片付いたら、周辺を掃除してすべての作業が終了となります。
4 . 屋根材別のDIYの注意点
屋根材によって耐用年数が変わり、塗り替える周期も変わってきます。メンテナンスの方法も異なるので、家の屋根がどの材質を使っているのかは把握しておかなければいけません。代表的な「ストレート屋根」「トタン屋根」「モニエル瓦屋根」について解説していきましょう。
4-1 ストレート屋根
ストレート屋根は、「スレート」という素材を使用した屋根のことです。「コロニアル」「カラーベスト」とも呼ばれます。安くてデザイン性に優れているため、人気の屋根材です。しかし、汚れやすく割れやすいなどの欠点もあります。
塗装の前は、高圧洗浄機を使ってしっかり汚れを洗い落とします。ひび割れが入りやすい素材なので、発見した場合はシーリング材等で補修しましょう。
ストレート屋根の塗装の場合、下塗りと中塗りとの間に、「タスペーサーの挿入」という工程が入ります。屋根材と屋根材の間に隙間を作り、雨漏りを防止するための作業になります。
4-2 トタン屋根
トタン屋根は、薄い鉄板素材であるトタンを使ってできた屋根です。非常に軽量で安価ですが、鉄という素材のため錆びやすいのが難点です。現在は、一般住宅での使用はあまり見かけなくなりました。
錆が多いので、ワイヤーブラシやヤスリを使って綺麗に落とさなくてはいけません。錆が残っていると、塗料の定着が悪くなり、耐久性も下がります。錆の発生を抑制するために、下塗りの前に錆止めを塗るか、錆止め効果のある下塗り用塗料を選びましょう。
4-3 モニエル瓦屋根
モニエル瓦とは、日本モニエル株式会社が製造していた商品名になります。セメント瓦の一種で、正式には「乾式コンクリート瓦」と呼ばれます。現在はメーカー自体がなくなってしまったため、製造はされていません。
モニエル瓦屋根の塗装の際に注意したいのが、「スラリー層」です。瓦を保護するために、表面には着色スラリーという着色剤が塗られていて、スラリー層が形成されています。スラリー層を残したまま塗装しようとすると、塗料が上手く付着しません。
下塗りの前に高圧洗浄でできるだけスラリー層を除去し、取り除けない部分はケレンをして綺麗な状態に整えます。塗装には、モニエル瓦に適した塗料を使います。
5 . DIYで起こりやすいトラブル
屋根塗装は高所作業であり危険が伴うため、十分に注意が必要です。ほかにも、近隣から苦情を受けたり、塗装に失敗したりする可能性もあります。もしものときのために、起こりやすいトラブルを事前に把握しておきましょう。
5-1 近隣住宅に塗料が飛び散る
高所での塗装作業のため、塗料が周辺に飛び散ってしまうことがあります。隣の家までの距離が近いと、塗料を外壁に付着させてしまう場合も。
すると、数十万円もの弁償費を請求されかねません。作業を業者に依頼している訳ではないので、もちろん自己負担となります。
このトラブルを予防するには、養生を徹底して行うことです。隣の家の外壁だけでなく、車なども注意しましょう。とくに、風の強い日の作業は塗料が飛散しやすくなるので、避けた方がいいかも知れません。
5-2 臭いがクレームになる
塗料の臭いはどうしても周囲に広がります。敏感な人にとっては悪臭だと感じてしまい、クレームを受けてしまう場合もあります。
トラブルに発展させないためには、塗装作業に入る前に、あらかじめ近隣へ挨拶に回ることが重要です。事情を説明して、理解を得ましょう。
塗料に関しても、シンナーを使った油性塗料は臭いを発しやすくなります。シンナー未使用である水性塗料を使って作業するなどの配慮が、トラブル防止には有効となります。
5-3 塗り残しや塗りムラが発生する
塗り残しや塗りムラも、DIYでは起こりやすいトラブルです。その部分が劣化の原因となり、耐久性に悪影響を及ぼす可能性もあるので回避したいところ。技術面において、専門としている職人に劣るのは仕方ありませんが、注意を怠らなければ避けられるはずです。
塗りムラの原因としては、「下塗り用塗料の選択を誤った」「下塗り作業が十分ではなかった」などが挙げられます。屋根によって適切な塗料があります。選択を誤れば、仕上がりにも問題が生じます。
塗装の方法においても、下塗り作業が十分でなければ、中塗り上塗りにも影響が出てきます。
塗り残しにおいては、作業が終了して足場を解体する前に、くまなく確認しましょう。もしくは、中塗りと上塗りで違う色を使うと発見しやすくなります。
6 . 屋根塗装DIYのメリットとデメリット
屋根塗装をDIYする大きなメリットは2つあります。
- 人件費の削減
- 自分好みにデザインできる
塗装業者に依頼した場合、「人件費」に割かれる費用は、全体の費用の約3割にあたります。DIYならこの費用は不要になり、非常に大きな金額を削減することができます。
デザインに関しても、業者に依頼した場合はすべて自由にはなりません。色や塗料の選択は、業者と相談しながら決める必要があります。
依頼しないのであれば、自分好みのデザインが可能になります。自分で塗装すれば、屋根に対する愛着も湧きますよね。
逆にDIYのデメリットは、以下の4つです。
- 危険性が高い
- 工期が長くなる
- 耐久性の低下
- 近隣とのトラブルが多い
高所作業は、言うまでもなく危険が伴います。プロの職人ですらケガの多い作業ですから、素人が行えば必然的に危険性も高まります。
7 . 最終的に損をしない方法を選択しましょう
屋根塗装をDIYで一人で行うとなると、業者に依頼する場合よりも格段に工期が長くなります。業者なら2週間で済むところが、1カ月以上かかってしまうことはザラです。
技術面においても、業者と比べると確実に劣る訳ですから、屋根の耐久性も下がります。短い周期で塗り直しの時期を迎えてしまった場合は、費用対効果という面においてもかなり低くなってしまいます。
DIYでは、近隣とのトラブルも起こりがちです。塗料の飛散や騒音など、業者であればノウハウを活かした対応ができますが、素人ではなかなか困難。賠償請求などの問題にも発展しかねません。
DIYによる塗装には、こうしたメリットとデメリットがあります。DIYを思い立っても見切り発車は禁物。本記事の解説を参考に、損しない方法を選択してください。