木造の家や鉄筋コンクリートの家など、住宅によってさまざまな造りがあるように、屋根にもいろいろな造りがあります。本を開いて逆さまにしたような三角の形をしている切妻屋根や、一方にだけ傾斜がある片流れ屋根、平らな形の陸屋根などです。
ここでは、雨露をしのいでくれる屋根の塗装について解説します。
1 . 屋根塗装とは
屋根は外壁に比べて、間近で目にする機会が少ない場所です。そのため破損に気づきにくく、目につきやすい外壁の塗装を優先する方が多いのが現実でしょう。しかし、屋根のメンテナンスを軽く見ると、外壁よりも大きな被害が出やすくなってしまいます。
そのため、住宅の寿命を伸ばす上でも、屋根塗装の重要性を知っておく必要があります。
1-1 そもそも屋根に塗装が必要な理由は?
屋根は住宅の最上部で毎日毎日、雨や雪、強風、紫外線などにさらされています。屋根は、自然からの影響を外壁よりも多く受けている分、劣化の進みが早く、放置すれば雨漏りなどの広範囲な被害につながります。
そこで、屋根の保護を目的とした塗装工事が必要になるのです。塗装のサイクルの目安は10年で、それ以上放置すると見栄えも悪くなってしまいます。ただし、屋根材や屋根の状態によって塗装の必要度合いは異なります。
例えば、粘土瓦で作られた屋根は一般的に塗装の必要がないとされます。また塗装が剥げて屋根材が出てしまっている状態にまでなると、塗装だけでなくその下にある防水フィルムの補修もしなくてはならないケースもあるでしょう。塗装は、屋根を健全に保つための手段の1つと考えてください。
1-2 こんな症状があったら屋根塗装を検討しよう
それでは、屋根がどんな状態になっていたら塗装が必要なのでしょうか。具体的な症状の例を挙げますので、段階ごとの劣化の度合いを確認しましょう。
色褪せ
比較的初期から現れる劣化のサインです。屋根の塗装面が色褪せている、薄くなっていると感じるほか、白っぽく感じたり、色がくすんで見えたりします。また、白い粉が浮く現象をチョーキングと言います。
このチョーキングは紫外線によって塗料の中の合成樹脂が分解され、顔料が粉状になって塗装表面に現れたものです。この現象は自然な劣化現象ではなく、施工不良が原因で起こることもあります。
チョーキング現象が起こりやすい施工不良の代表例は、
■ 塗料が十分に混ざっていなかった
■ 高圧洗浄や塗装作業の際に手順を誤った
■ 環境に合っていない塗料で塗装工事を行った
などが考えられます。チョーキング現象は塗膜劣化が起きている状態ですから、自然環境に対する保護能力が弱まっていることを意味します。耐久性や防水性など本来の性能が低下し、雨水が浸入しやすい状態でもある訳です。
その結果、コケやカビが発生したり、ひび割れが起きたりする可能性も高くなってしまいます。
コケ・カビ
色褪せが進むと塗料の保護力が失われ、コケやカビが生えやすくなります。胞子を飛ばし、菌糸でつながってどんどん増えるコケやカビは、一度定着すると屋根全体に広がってしまいます。美観や清潔感が損なわれるだけでなく、塗料の保護効果がさらに低下する原因になります。
ひび割れ
塗装の保護力が失われると、屋根材そのものにひび割れが発生することがあります。こうした材料が自然と修復されることはありませんので、年月が経つにつれてひび割れが進み、屋根がずれてしまうこともあるのです。
ここまで症状が進んでしまうと、雨水が染み込んで雨漏りにつながる恐れが高くなります。ただ、普段は見えない場所ということもあり、雨漏りが起きてからひび割れに気づく人も多いようです。
剥がれ
塗装が剥がれて屋根材がむき出しになっている状態です。塗装の保護効果がほぼ失われていると言えるでしょう。こうなると雨漏りが発生するだけでなく、屋根材が雨水を吸収して傷んだり腐ったりしてしまいます。
剥がれた塗膜が近隣の家の敷地に入ってしまえば、ご近所トラブルに発展してしまうこともあるので注意が必要です。
屋根材の破損
経年劣化だけでなく、台風などの自然災害に遭遇すると、屋根が大きな被害を受けてしまうことがあります。強風による剥がれもありますが、飛散してきたものによって、ダメージを受けてしまうことも珍しくありません。
そして屋根材そのものがダメージを受けてしまうと、その下に敷かれた防水シートまでむき出しになってしまいます。ここまでくると塗装の保護効果はすっかり失われています。
また、そのまま放置してしまうと、荒天に見舞われたとき、今度は防水シート自体が損傷し、雨水に対して無防備な状態になります。
その結果、家の中には雨がどんどん入ってきてしまうでしょう。
また、壊れた屋根材が落下するとケガ人が出る恐れもあります。
2 . 屋根塗装の種類
屋根材には大きく分けて3種類あり、その中にもさらに分類があります。それぞれに長所と短所があり、塗装などの必要なメンテナンスも異なるため、違いを知っておくと便利です。
2-1 瓦屋根
日本人が屋根と聞いてまっさきに思い浮かべるのが瓦屋根ではないでしょうか。
屋根材の中でもっとも重くて厚みがあり、古い日本家屋にもよく使われています。瓦はさらに、素材によって粘土瓦とセメント瓦に分けられ、セメント瓦の一種として表面を着色したモニエル瓦もあります。粘土瓦は一般的に塗装ができないとされていますが、最近は粘土瓦にも使える塗料が登場しています。
セメント瓦は防水効果が低いため、定期的に塗装する必要があります。瓦屋根は耐用年数が長く、粘土瓦は50~100年、セメント瓦は30~40年ほどとされています。
2-2 スレート
スレートはもともと粘板岩を板状にした建築材ですが、高価なためあまり普及していません。
この粘板岩のスレートを天然スレートと呼ぶのに対し、セメントに繊維素材を混ぜて板状に加工したものを化粧スレートと呼びます。一般的にスレートというと、広く普及している化粧スレートの方を指し、別名をコロニアル、カラーベストともいいます。
厚さが5mm前後で重量も軽く、最近の屋根によく使用されていますが、防水性が低いため塗装の保護が必要です。屋根材の中では比較的耐用年数が短く、15~25年程度とされます。
2-3 金属屋根
金属屋根は、屋根材のなかでもっとも薄くて軽いのが特徴です。使われている金属はさらに、トタンとガルバリウム鋼板に分けられます。
トタンとは亜鉛めっき鋼板のことであり、日本では古くから使われてきました。独特の波打った形状を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。安価で耐食性に優れているという特徴を持ち合わせています。
ガルバリウム鋼板は正式名称を「55%アルミ・亜鉛合金メッキ鋼板」といい、ガルバリウムという合金でめっきした鉄の建築材です。金属屋根はデザイン性に優れ、住宅を個性的に演出できることから、近年人気を高めています。
しかし金属の特性上、塗装の剥がれたところなどからサビが出やすいという欠点もあります。耐用年数はトタンが10~20年、ガルバリウム鋼板が20~30年とされます。
2-4 DIYによる屋根塗装は可能か?
上記、屋根材の耐用年数は、きちんとメンテナンスしていることが前提です。粘土瓦の屋根以外は、定期的に塗装工事をすることが理想的。メンテナンスを怠ると劣化が早く進み、塗装以外の補修工事も必要になります。
小まめなメンテナンスの費用負担を抑えるため、DIYで屋根を塗装したいと考える人も多いでしょう。塗るだけなら簡単にできてしまうイメージがあるかもしれませんが、素人が屋根に登るのは転落のリスクが大きい上に、塗装の質も低くなってしまいます。余計な費用の負担を抑えるためにも、初めから業者に依頼するのが無難でしょう。
2-5 屋根塗装(ウレタン系)
ウレタンは、伸縮性のある成分です。ウレタン樹脂の塗料は価格も安く、様々な素材に使いやすいのが利点でしたが、近年ではこれに代わる塗料が増えたこともあり、あまり見かけなくなってきたことも事実です。
とにかく最低限の金額で抑えたい、あるいは流行りの色などに小まめに塗り替えたい人にとっては適切な塗料かも知れません。ただし、耐候性が低く塗り替え時期が早いというデメリットがあることを覚えておきましょう。
2-6 屋根塗装(シリコン系)
シリコンは、耐熱性の高い成分です。この特性を活かしたシリコン塗料は耐用年数が長く、価格も手頃なため、戸建て住宅の塗装では非常に人気の高い塗料です。ただし、この塗料に関しては、グレードによって差があることに注意が必要です。仮にシリコン系の塗料であっても、グレードが低ければ耐用年数が8年程度と短いこともあります。そのため、塗料メーカーのホームページなどで塗料のグレードについて確認するのが大切です。
2-7 屋根塗装(フッ素系)
フライパンのコーティングなどでも知られているフッ素という樹脂は、耐熱性や耐候性に優れています。そのためフッ素塗料は、非常に長い耐用年数を誇り、大型物件や公共の建築物の塗装などによく使われてきました。
しかし、価格が高いことから一般的な住宅にはそれほど使われない塗料でもあったのです。
ところが、メーカーの技術開発が進んで価格が下がったことを受け、住宅の塗装においても見かけるようになってきました。不燃性が高く耐候性にも優れていることから、日当たりの良い場所や塩害のある海沿いなど、場所を選ばず使えることが人気の秘密と言えそうです。
3 . 屋根塗装の費用相場
屋根塗装や塗装以外の補修を業者に依頼するとき、一番気になるのが費用ですよね。
費用相場を知らないと、悪徳業者に騙されてしまうかも知れません。一般的な屋根塗装の費用相場は、40坪の住宅で足場ありの場合、40~90万円程度とされます。しかし屋根材や塗料によっても値段が変わってくるため、あまりハッキリとは言い切れないのが実情です。
そこでもう少し細かく、塗装工事が必要なセメント瓦、スレート、トタンの各屋根材を例に取り、ウレタン系、シリコン系、フッ素系の塗料の単価相場を当てはめた費用相場を見てみましょう。
■ セメント瓦屋根用塗料の単価相場ウレタン系 … 1,800~2,000円/㎡、シリコン系 … 2,300~2,500円/㎡、フッ素系 … 3,100~3,500円/㎡
40坪の相場 → ウレタン系 … 36万~40万円、シリコン系 … 46万~50万円、フッ素系 … 61万~70万円
■ スレート屋根用塗料の単価相場ウレタン系 … 1,500~2,000円/㎡、シリコン系 … 1,800~2,500円/㎡、フッ素系 … 3,300~4,500円/㎡
40坪の相場 → ウレタン系 … 30万~40万円、シリコン系 … 36万~50万円、フッ素系 … 65万~89万円
■ トタン屋根用塗料の単価相場ウレタン系 … 1800~2000円/㎡、シリコン系 … 1,800~,200円/㎡、フッ素系 … 3,300~4,500円/㎡
40坪の相場 → ウレタン系 … 36万~40万円、シリコン系 … 36万~44万円、フッ素系 … 65万~89万円
安めの塗料を選べば、当然費用は抑えられます。ただし、屋根は住宅で一番過酷な条件にさらされているということを忘れないでください。耐水性や保護機能が低い塗料を使うと、結局は劣化が早まって塗り直し回数が増えてしまいます。機能性の高い塗料を選んだ方が、長期的にはコストを抑えられるのです。
次に、塗装だけでは不十分な屋根の補修について、工事の方法と費用相場をご説明します。
3-1 葺き替え工事
今ある屋根材を撤去し、まったく新しいものを使ってすべて葺き替える工事のことです。屋根材だけではなく、その下に敷かれた防水シートや下地の野地板、スレート屋根の頂点を守る棟板金なども傷んでいれば交換することになります。いわば屋根自体を丸ごと新品に替えてしまいます。
葺き替え工事の場合、屋根そのものをメンテナンスして新品に取り替えるので、思い切って違う屋根材を使えば、住宅の雰囲気を変えられるところも魅力の1つでしょう。ただし、注意したいのは工事費用です。新たな屋根材の費用に加え、古い屋根材の処分にも費用がかかるため、30坪の住宅で60~200万円かかるとされています。
3-2 重ね葺き工事(カバー工法)
重ね葺きはカバー工法という別名もある通り、現状の屋根材の上に新品の屋根材をカバーするように被せる工事です。
屋根に屋根を被せるとなると、重過ぎて家が潰れてしまうのではと心配になる人もいらっしゃるかも知れませんが、心配はご無用。そうした事態を見据え、重ね葺きには薄くて軽いガルバリウム鋼板を使うことが多く、家への負担は最小限に抑えられます。
古い屋根材の処分費用がかからないのは魅力ですが、下地となる屋根の傷みがひど過ぎると、そのままでは使えないというケースも発生してしまいます。
そのため、どんな屋根にも適用できる工法ではなく、工事前には必ず業者による調査が必要です。ちなみに30坪の屋根の相場費用は80~120万円ほどとされます。
3-3 小規模な補修
地震や台風で屋根が一部分だけ剥がれてしまったり、雨漏りがするようになったというときには、部分的な補修も可能です。主な部分補修と相場は次の通りです。
■ 雨漏りの補修(5~30万円程度)雨漏りは依頼主が部分補修で済むと思っていても、業者が原因や経路を調査した結果、全体補修が必要と分かることもあります。小さな雨漏りを放置せず、屋根全体が傷む前に補修を依頼しましょう。
■ 棟板金の交換(3~10万円程度)棟板金は釘で固定されているものが多く、強風などで激しく動くとずれたり飛ばされたりしてしまいます。屋根の頂点を守る棟板金がなくなると雨漏りしやすくなるため、傷みがあればすぐ交換しましょう。
■ 漆喰の補修(3~10万円程度)粘土瓦は漆喰で土台に固定されているため、漆喰の劣化でずれたり落ちたりしてしまうことがあります。粘土瓦は塗装の必要がないため油断してしまいがちですが、小まめに状態をチェックしましょう。
■ 屋根材の交換(1円~5万円程度)災害などで屋根が破損した場合、全体を取り換えなければならないケースは稀です。破損した部分だけ新品に付け替えてもらいましょう。
4 . 費用を抑えるコツ
大切な家を一番上で守ってくれる屋根だからこそ、ケアに妥協はしたくありませんよね。しかし、誰もが少しでも費用を抑えたいと考えているはずです。屋根の工事費用を上手に抑えるには、どんな方法があるのでしょうか。
4-1 定期的なメンテナンスを行う
なにより大切なのは、しっかりメンテナンスすることです。そもそも耐用年数というのは、固定資産の減価償却費を計算するために税法で規定された年数のことを意味します。メーカーごとの実験データなどを見ると、様々な製品への工夫がなされているため、これを上回る結果になっています。
ただし、こうした結果が出るのは、想定外の事態を考えなかった場合です。例年より台風の数が多くても、なにも気にかけずに屋根を風雨にさらしていれば、耐用年数に達していなくても雨漏りや屋根材の破損が起き、多大な費用がかかる葺き替え工事しか選べなくなることもあります。
そうなる前に、定期的なメンテナンスが必要です。最もコストが小さい塗装工事をきちんと行うことで、高コストの葺き替えや重ね葺き工事を避けられるのです。
とはいえ、塗装工事にも数十万円かかる訳ですから、迷ってしまう人もいらっしゃいますよね。そんなときは補助金や助成金の申請も検討してみましょう。補助金や助成金には必ず受け取り条件があるので、住民登録している地域や住宅が建っている地域の自治体の発行物、ホームページなどをよく調べることが大切です。
最近は、ヒートアイランド現象の抑止や省エネが見込めるという理由で、高遮熱塗料や高断熱塗料を使用した塗装工事を補助の対象にすることが増えています。
4-2 外壁塗装と同時に行う
そして実は、屋根塗装の費用を抑えるのに適した時期があります。それは、外壁塗装と同時のタイミング。塗装工事をするときは、安全かつ効率的な作業をするために足場を組みます。これは屋根、外壁のいずれでも同じです。
この足場を組む費用は、30坪程度で20万円近くかかります。屋根と外壁の塗装を別々にすれば足場代は2回分かかりますが、一緒にすれば1回分で済む訳です。
ただし、屋根塗装を外壁塗装のついでと考えないようにしましょう。屋根は外壁より傷みやすく、それでいて快適な住環境を守るために重要な場所。屋根を中心に、外壁も一緒のタイミングで塗装すると考えた方がいいかも知れません。
また、近年は災害の後などは特に、悪徳業者の訪問が増えるケースが見受けられるようになりました。例えば、「通りがかりに破風が壊れているのが見えた。すぐに直した方がいい」と持ちかけてくるのです。危機感を煽るような物言いをしてきますので、一般の方は慌ててしまいます。
また、このような業者は同時にいろいろなところを補修させようとします。こうした被害を避けるためには、飛び込み営業的に破損部分を指摘してくる業者とは関わりを持たない、ということです。
訪問営業をしなければ怪しくない、という訳ではありませんが、紹介など信頼できる方法でコンタクトを取った業者からきちんと見積もりを取り、納得のいく説明を受けることが大切です。
たとえ紹介であっても、ごまかそうとするようなら、そこには何か言えないことがあるのでしょう。見積もり内容を説明できなければ、怪しい業者だと思っていいのかも知れませんね。
5 . 屋根材の特性に合わせた塗装や舗装工事を行いましょう
普段なかなか目にする機会がない屋根は、ついメンテナンスを疎かにしがちです。
しかし住宅の中でもっとも傷みやすい場所なので、10年ごとに塗装工事をしてきちんと保護することが大切です。屋根に色褪せやひび割れなどの劣化のサインが出ていたら、屋根材の特性に合わせた塗装や補修工事を行いましょう。
屋根の工事には葺き替えや重ね葺きなどの補修がありますが、一番低コストで済むのは塗装工事です。補助金や助成金を活用するほか、外壁塗装と同時に屋根塗装をして足場代を浮かせるなど、賢く費用を抑え、屋根材本来の耐用年数まで大切に使ってあげてください。